
英雄たちが愛した歴史的グローブその3 「よみがえれ赤カップ編」
40年ほど前、多くの一流プロ野球選手に愛用された美津濃の赤カップグローブは、当時の野球少年の憧れでした。今になってそれを手にすることができても、憧れの象徴だったカップマークは、ほぼ例外なく無残に劣化しています。今回はその修復法についてご紹介します。
前回はビンテージサッカースパイクの修理についてでしたが、今回はグローブの修理のお話です。
私の趣味は古いサッカースパイク収集ですが、ついでに気になっているものがミズノ(美津濃)の赤カップグローブです。 あまり程度にはこだわっておらず、オークション等で安価に出品されていたものをいくつか手に入れ、憧れた当時の選手たちを思い出し、郷愁にふけっていました。
しかし、憧れの赤カップマークは40年余りの年月を経て、エナメル部分が劣化し、ヒビ割れならまだしも、すべて剥がれ落ちて白カップ状態のものもあります。
気休めにエナメル塗料で補修したりしましたが、かえって見苦しくなったこともありました。 未使用品ならマークも劣化していないのかもと思っていましたが、おそろしい価格で取引されており、自分には縁遠い存在でした。
図1 箱入り未使用の赤カップモデル(詳しくはこちらをご覧下さい)
しかし、2019年秋ごろにヤフオクに70個ほど箱入り未使用の美津濃グローブが出品され(ほとんどが赤カップモデル)、そのうちのいくつかを運良く入手できました(図1)。
革はシミ一つなく、一度も手を入れた形跡がないようなすばらしい状態にもかかわらず、どれも赤カップは劣化していました。 また、その他のグローブについても画像を保存して確認しましたが、カップマークが無傷なものはひとつもありませんでした。
おそらく、現存する赤カップモデルでマークがまともなものが残っている確率は極めて低いと思われます。
図2 劣化した赤カップのエナメル部分。手でさわっただけでポロポロ剥がれてきます。また、同じ赤カップでも微妙に形が違うものがあったようです。
赤カップモデルはその人気さゆえにこれまで復刻版が何回か販売されました。 2015年に販売されたモデルは購入しましたが、その際に古いグローブの交換用に、復刻版の赤カップマークのみも購入できないかと販売店にたずねましたが、無理でした。
ネット上では自力で劣化した赤カップを交換した方々もおられるようですが、赤カップマークの入手先や、交換修理してくれるお店の情報などはありませんでした。
しばらく交換については諦めていましたが、ヤフオクやメルカリで赤カップマークが出品されていたのでいくつか入手してみました。
図3 無残に劣化したオリジナルの赤カップマーク(左上)。他は手に入れた交換用マーク。
私が集めたグローブは、どなたか有名選手の実使用品ではないので、手を加えることへの抵抗はまったくありません。 しかし、手に入れた交換用マークはどれもオリジナルのカップのデザインと比べると若干違和感がありました。
また、劣化防止のため、素材そのものがエナメルではないものもありました(図3)。 新しいエナメルが再度劣化するころには、おそらくこの世にはいないと思うので、やはり交換するならオリジナルに近いものということで、リクエストに応じてくれる刺繍店を探すことにしました。
図4 ヤフオクで手に入れた余白が大きい赤カップマーク(左)。4すみにオリジナルに近いデザインのマークを新たに刺繍してもらった後。
たまたまヤフオクで手に入れた赤カップマーク(図4左)の余分なエナメル部分がもったいないと感じ、そこにマークを刺繍してくれそうなお店を検索したところ、こちらが目にとまりました。
図5 刺繍屋ヘッジホッグさんのホームページ
私は赤カップモデルをいつのまにか10数個も集めてしまい、すべて交換するにはかなりの数のマークが必要でした。
オークション等で売られているマークはいずれもけっこう高額でしたが、ヘッジホッグさんのカップマーク1つの刺繍代はおどろきの安価! しかも、店長さんがオリジナルに近いデザインにしましょうとご提案いただき、図4右のように仕上げてもらいました。
エナメル生地はいろいろあるようで、安ければ畳1枚分1000円ぐらいで入手できるので、青カップ用のものは自分で購入しました。
というわけで、とりあえず持っているグローブ数+αのマークを作製していただき、次は交換作業をしてくれるお店を探し、下記の修理店にお願いしました。
図6 Re-Birthさんのホームページ。連絡はラインでも可能です。はじめは同様の修理経験がないとのことでしたが、まったく問題なく対応していただきました。
図7 マーク交換後のグローブたち。ついでに青カップモデルも交換してもらいました。
タータン、クロス、ディープボウルの3種類のウェブがありますが、どれもきれいに交換していただきました。ただ、マーク周辺の革の劣化がひどいと縫えないそうです。
図8 復刻版(右)と比較しても遜色ありません。
図9 青カップもきれいです。
オリジナルにこだわる方にはおすすめしませんが、あわれな状態のカップマークが新しくなるとけっこう晴れやかな気分になります。
さて、昔の赤カップグローブそのものも、入手するのはそれなりに大変ですが、当時のカタログはさらに入手困難です。オークションで出品されているのを見たことがありますが、グローブがもう一つ買えるぐらい高額だった記憶があります。
そんな貴重なカタログも運よく手に入りました。
図10 70年代後半から80年代前半の美津濃とローリングスの野球用品カタログ。80年ごろから大リーグの稀代のヒットメーカー、P・ローズ選手も美津濃のアドバイザリースタッフに加わりました。後にミズノの偉大な広告塔になったイチロー選手とローズ選手は日米のヒット数でひともんちゃくありました。何か因縁を感じます。右下のローリングスの表紙写真の構図は背景が秀逸ですね。
カタログの入手先はなんと!こちらでご紹介した先生です。 驚愕のサッカースパイクコレクターは、筋金入りの野球グローブコレクターでもありました。
カタログのみならず、以下はお譲りいただいたグローブコレクションの一部です。
図11 ローリングスのグローブコレクション。憧れのUSAローリングスモデルです。左下はA.ロッド選手の実使用品だそうです。
図12 ウィルソンのグローブコレクション
コレクションの多彩さと年代の幅広さにおどろくばかりです。 私は美津濃赤カップしか知識がなかったのですが、先生はまだ日本では遠い存在でしかなかったころの大リーグにも大変お詳しく、数々の貴重な書籍もお譲りいただきました。
あらためてご厚意に感謝し、これからはスパイクのみならず、ビンテージグローブの知識も増やしていければと思います。
著者 小西博昭の作品はバナーをクリック!
『神に愛された西独製サッカースパイク』
80年代に数々の伝説を生んだサッカー界のスーパースターを足元から考察した論考。
このコラムを書いた後も、先生からいくつか貴重なビンテージグローブをお譲りいただきました。
せっかくの再掲載の機会ですので、少しだけ紹介させていただきます。

ティム・ウォーラック選手とデレク・ジーター選手のシグネチャーモデル。
ジーター選手は言うまでもないヤンキースの名ショート

90年代後半のモデルのようです。
ウォーラック選手は先生のご説明曰く、ドジャース時代の野茂投手のチームメートだったそうです。上の画像のグローブですが、「29」は(おそらく)ご本人が書かれた実使用品だそうです。

エキスポス時代の画像。確かに同じモデルのようです。
ローリングスについてはかなり年季の入ったモデルも多数お譲りいただきました。
こちらは修理前のもののようで、

バラバラ状態でしたが、せっかくのUSAローリングスですので、コラムでご紹介した「Re-Birth」さんで修理していただきました。

マークも何とかしたいところですが、充分使用可能になりました。
こちらのモデルはこの選手のシグネチャーモデルです。

エディ・マシューズ選手
と言われてもまったく存じ上げなかったのですが、500本以上ホームランを打ったスラッガーです。
ブレーブス時代はあのハンク・アーロン選手(755本塁打)とともに活躍されました。
3塁手だったそうですが、60年代はこんな小さなグローブでサードを守っていたのですね。
小さいグローブで私の記憶にあるのは往年の名セカンド、

高木守道選手です。
今もこのタイプのグローブは好みです。
ということで、やはりまた入手してしまいました。

こちらでご紹介した新たな赤カップ復刻版(左)。右は当時物です。
今回の復刻版は、なんだか触ってはいけないぐらいしなやかな革でできています。
最近のグローブの進化を感じます。
今までグローブを集めても、キャッチボールする相手すらいなかったので、まったく使う機会がありませんでした。
これではいかんと思い、リバウンドネットを購入して一人キャッチボールをしています。
サッカーもテニスもボレーの練習ができ、とてもよい感じです。
なかなか新品のグローブではやりにくいですが、修理したグローブの感触チェックにはもってこいです。
古いグローブといえば、最近目にしたこちらのニュース、
東京六大学野球の始球式をされた井出さん。
御年81歳だそうです。
私が初めてプロ野球を見だした昭和49年に、優勝した中日でご活躍だったことをよく覚えています。燃えよドラゴンズの歌詞にも登場していました。
小学生ながら、選手名鑑や野球雑誌を見まくっていたので、金田さんの400勝、稲尾さんの年間42勝、王さんの年間55本HRや、福本さんの年間106盗塁のプロ野球記録なみに、東大卒のプロ野球選手というのはものすごいインパクトでした。
こだわりのグローブが赤カップってのはいいですね。
ちょっとウェブが特殊な感じです。
(現在ヤフオクに出品されている大リーグの名選手モデルが同じウェブでした)

さて、こちらも東京六大学野球の始球式をされた往年の名選手、

慶応ご出身の山下大輔さん。
大洋の名ショートで、現役時代のローリングスのグローブでの投球でした。
よく使われていたクロスウェブタイプは博物館に寄贈されたようです。
慶応に一般入試で入学されたことは存じておりましたが、出身高校はサッカーで有名な清水東高校というのは存じ上げませんでした。
東京六大学のレジェンド始球式はその後も続いており、とうとう赤カップの象徴、

高田さんが登場されました。
青いクロスウェブにライナーバックの赤カップは復刻版ですが、さすがのチョイスです。
カープファンとしては少し残念ですが、

2026年シーズンから新天地で頑張ってほしいです。
自主トレは赤カップ復刻グローブでした。
以前、野球教室でも、

その時も、クロスウェブの赤カップで、今永投手、ヌートーバー選手も赤カップグローブを使っていました。
天然皮革、木材を消費する野球道具もこれから存続が大変な気がしますが、細々ですが昔の野球用品についても発信できればと思います。
